日本では術例は少ないが、現在の世界で、
臓器移植は普通に行われている医療行為だと思います。
ただ圧倒的に提供者であるドナーが
足りない事実は、どこの国でも大きな問題でしょう。
いまや遺伝子工学は日進月歩で、
倫理さえ整えばクローンを産む技術は
あるのかも知れません。
静かに独白して行くこの小説は、
読み進めていくうちに驚愕の物語であることが
分かってきます。
主人公である子供達は、普通の子と同じように
教育を受け成長していきます。
普通に笑い、怒り、恋もして友情も育みます。
精神も肉体もより健康に育ちます。
ただし産まれた目的がドナーになること、
子供は作れない肉体であることを理解して、
提供するその日までを覚悟をもって生きていきます。
当然クローンですから、
自分の本当の親は知り得ないのです。
自分の人生が人を助ける究極の目標にあることは、
これも幸福のありかたの一つかも知れないのでしょうか。
帯に「心をノックする小説」とありますが、
本当にそうだなと思いました。
戦時の「特攻」についての本を何冊か読みましたが、
死に直結した人生が決められているという意味で、
どうしても連想してしまいました。
こちらは現実にあった話です。
もう一つ思い起こしたのは、
いつかニュースで知った出来事でした。
ある妊婦さんが、胎児が無脳症であると告知され
産んでも30分位しか生存できないであろうという宣告です。
医師は中絶を薦めましたが、
産んで臓器提供を決意したことです。
この決意はいかばかりかと胸に突き刺さりました。
ふくちゃんさん 66歳 男性
カズオ イシグロ (著), 土屋 政雄 (翻訳) 早川書房 2008/8/25