160ページに満たない小説ですが、作者の中村文則さんはあとがきにて、「人間の存在を特徴的なシチュエーションとして表現しようとして、2年半以上書き続けた…」(簡略)というように記しています。

主人公らが並んでいる「列」の先がどうなっているのか知らない。「列」に並ばなければいけないのかも判らない。前も後ろも終わりが見えない。横を向けば、今度は横に列が出来る。つまり十字の真ん中にいることになる。「列」の一番前の者でも、T字の横列の真ん中だ。主人公と「列」に並ぶ人々は希薄だが、会話もするし、愛の営みさえある。

このシチュエーションとしての存在と並行して、現実としての主人公らの生活が描かれる。私の感想だと、この現実を極めて簡略化して擬態化(?)したものが「列」で表現されているように思う。
人間は前後の関係を持ってしか、自分の存在を確かめられないとか、世の中の不条理などとも解釈できる。

まだまだ、主人公の猿の研究とか、人間と猿の遺伝子的関係、知的共通性など160ページ弱の中に詰め込まれているものを考えると、2年半以上ということに納得させられる。

みーちゃんさん 54歳 男性