年商100億円を超えるIT企業を経営し、
「ジモティ」ほか多くの企業の立ち上げにも関わってきた小野裕史さん。
しかし、抱えていた違和感は日に日に大きくなり、ある日仕事を一切手放し、インドに旅立つのです。
そこで出会ったのが、1億5000万人いるインド仏教徒のトップに立つ佐々井秀嶺師でした。
小野さんは、出会ったその日に師から「おまえ坊主になれ」と言われ、そ
の場で得度することを決め、袈裟と龍光の名前を授かるのです。
もともと極端な性格だそうで、全くスポーツと無縁だったのが、
健康のため始めたマラソンにのめり込んでしまい、ウルトラマランにも挑戦しています。
本書は、小野さんほど劇的ではないにせよ、大学教授を途中でやめ、
北海道の僻地の医者へとやはり転身した香山リカさんとの対談集。
このキャスティングはドンピシャで、いまだ迷いを払拭しきれない香山さんが、
「なぜすべてを捨て得たのか」をしつこく「追及」していきます。
小野さんは、それ以前の人生は「前世」といい、自分をゼロリセットする清々しさや、
捨てられないと感じるものこそ、とらわれを生み出し苦しみにつながっていることを語るのです。
感じるのは、まさに仏教的な、あるがままを受け入れ、あるがままに今を生きることの大切さ。
しかし、必ずしも誰にでも一律にすすめている訳ではなく、
人それぞれの置かれている環境や立場を踏まえ選択肢を提示するのが流儀。
その言葉の選び方には誠実さが感じられ、相談者が後を絶たないのもうなずけます。
ちなみに、本書を読んだことで興味を持ち、3冊も「いもづる読書」をしてしまいました。
1冊目は、彼の「前世」時代のウルトラマラソンへの挑戦を描いた
小野裕史『マラソン中毒者(ジャンキー)』(2013年/文藝春秋)。
通勤や出張の往復をマラソンに変え、経営で磨いた、目標から逆算する計画手法を実践。
北極点マラソンでは41名中4位、南極100キロマラソンでは9名中2位、
アカタマ砂漠250キロマラソンでは、4チーム中1位と、驚くべき成績を残しています。
2冊目は、香山リカ『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』。
(2024年/集英社クリエイティブ)。
彼女は、精神科医でしたが、恐竜が取り持つ縁?で、いまは、
週1回だけは東京で精神科の診療を続けつつ、北海道のむかわ町診療所の総合診療医に。
その経緯からいまの生活まで、一部始終を披瀝しています。
そして3冊目は、佐々井師の激烈な人生を描いた白石あづさ『世界が驚くニッポンのお坊さん
佐々井秀嶺、インドに笑う』。
インドに長期滞在し、佐々井師と行動をともにし、全幅の信頼を得て、
師をして『私の遺言となる』と言わしめた良書です
(ちなみに、師は2026年8月30日で91歳を迎え、いまだ活躍しています)。
3冊とも読みやすく、かつ感じるものが多く、おすすめです。
なお、『捨てない生き方』という、本書と真逆のタイトルの本を、
作家の五木寛之さんが書いており、こちらでご紹介していますので、よければご覧ください。
tomeさん



