いまや「共感の時代」、フェイスブックの「いいね」競争を筆頭に、
むしろ「共感過多」「共感中毒」の時代、
言いかえれば、行き過ぎた同調圧力の時代かもしれません。
一方で、世界中で分断や紛争・戦争は絶えず、
どうすれば、人間はわかりあえるのかは永遠の課題。

本書の著者は、なんとテロ・紛争解決のスペシャリスト。
実際に戦地に赴き、わかりあえない相手とのコミュニケーションに挑んできました。
そして、共感の外側にいる人に対しては、排他的になることも多く、
過剰な共感は、却って対立や分断を産むと警鐘を鳴らします。
そうした経験・立場から、共感が持つ負の側面を考察したのが本書です。

まずは「キモくて金のないおっさんは、なぜ共感されないのか?」
というところから問題提起。
人間に限らず、共感されない犬や猫もいるのです。
そして、共感中毒がもたらす負の連鎖に言及、
紛争地域から見る共感との付き合い方を考えます。

基本的には、人はわかりあえないものであり、
それを前提に、どう前に進めるかを考えるしかないのです。
無理に白黒はっきりつける必要はありません。
むしろ、「自分の思考の輪郭線は、常にぼやけていた方が、
より良い社会を創ることができる」と言い、
共感の良いところをうまく使いながらも、
同時に理性を働かせることの大切さを説いています。

なお、本書には、
女性のヒール・パンプスの義務化に抗う「#KuToo」運動を展開した石川優美さんと、
「共感が暴走している」と危惧する思想家・武道家の内田樹さんとの、
2つの対談も収録されています。

tomeさん