昨今、様々な媒体で取り上げられるハラスメント。とりわけセクハラや性暴力といった場合は、被害者はもちろん、晒されれば加害者もその後の人生に深刻な影響を及ぼす。しかし加害者の場合、告発などでもなされなければ、性犯罪を繰り返すケースが多いように感じる。
井上荒野さんのこの小説も同様で、被害者の一人が7年後に告発を決意するまでに、性加害が繰り返されていた。加害者の言い分は吐き気がする程の自信過剰ぶりだが、より社会として知っておかなければならないのは、性被害に合った(この小説の場合)女性が被害当初、自分が性被害に合ったことを受け入れることに強い拒否感を感じることだ。このことが被害者の告発を遅らせ、加害者をのさぼらせる一因になっている。
確かに自分がレイプされたと受け止めるより、こんなこと大したことじゃないと思い込もうとする方が元通りの生活には戻りやすい。しかし、被害者たちの殆どは、その後、後遺症に苦しめられ決して忘れることなど出来ない傷を負い、家族も傷を背負うことになる。
この小説は、被害に合った女性たちの心理を詳細に描いている点が特徴的であり、単に、性暴力を状況描写で描くのではなく、心理描写を中心にハラスメントが生まれる空気や、登場人物のその後を重層的に活写することで問題提起していると言える。
みーちゃんさん 56歳 男性





