2025年10月、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』が放送開始から30年。
名作・話題作となった番組と登場人物たちの「その後」の物語が、
特別企画として5週連続で放送されました。

その第3弾として放送されたのが、歴代最多受賞作となった
2019年放送「おじさん、ありがとう~ショウとタクマと熱血和尚~」。
家庭に居場所を失った少年少女たちと、
彼らを支え続けた熱血和尚との交流を12年にわたり取材した番組です。
私は『ザ・ノンフィクション』は7~8年前から、ほぼ毎週欠かさず見ており、
この番組は、初回放送時に加え、今回も再度見た次第です。

そこで、和尚の姿に改めて感動を覚え、何か著作はないかと調べたところ、
7冊の本が出ていることがわかり、1冊を読んでみました。
今回読んだ本は本人の著作ではありますが、
ライターが取材して構成したつくりになっています。

まず何よりスゴイのは、「不良」になった子どもたちを常時10人前後、
お寺に無料で住まわせ面倒を見ていたことです。
そして、数カ月から数年で更生させ、卒業していった子どもたちは、
この本(2005年)の時点で399人。
相談はもちろん「入寺」希望者は後を絶ちません。
学校の先生を叱りつけたり、ときにはヤクザの事務所にも乗り込み、毎日が修羅場の連続。
愛知県は岡崎市にあるお寺ですが、
必要に応じ、日本全国どこにでも出かけていく行動力の持ち主でした。

映像で一番印象に残ったのは、どんな人であろうと、
いや不遇であった人ならばなおさら、人の生そのものを善きものとして肯定し、
その人をまるごと歓迎し、そのまま受け入れる姿勢でした。
「不良」になった子どもたちは、必ず家庭環境、とくに両親に問題があり、
自分の生が否定され、自己肯定感が極度に低いものです。
「熱血和尚」は、そんな子どもたちを文字通り全身で受け止め、友人の如く接し、
基本は本人の意思を尊重しながら、とことん見守り続け、要所要所では厳しく接するのです。

本書を読んでわかったのは、そうした和尚のスタイルが生まれてきた背景です。
住職の子として生まれながら、中学くらいからは厳しい親に反発。
高校では「不良」となり無期停学の後に、さらに傷害事件を起こし現行犯で逮捕。
しかし担任の先生が警官にひたすら謝り
「後は自分が面倒をみてなんとかするから」と泣きながら訴えたおかげで、
少年院に行かずに済み釈放されたのです。

これを機に、心を入れ替え勉強に励み、大学は仏教学科に進学。
しかし仕送りもなくバイトに励み、そのときの縁で卒業後は地元に帰り就職。
ほどなくトップセールスマンになりながら、部長とケンカして1年で退職してしまいますが、
その後、塾や会社経営を始めて大成功。最盛期には社員が175人もいたとか。
しかし39歳のとき、父が倒れ、お寺の跡を継ぐことにしたのです。

「不良」やどん底を経験してきた人が立ち直ると、
その経験を活かし「常人」以上の活躍をする人の話はよく聞きます。
和尚も、「不良」だったのに人に救われた決定的な経験があったからこそ、
そのときの自分の想いを、今の子どもたちにも与えたいに違いありません。

そうした経験に加え、僧侶として仏教の考え方や教えにも根ざし、
日々の教育や講話や講演をしていることも見逃せません。
ヤクザに対しても、怖いと思ったことは一度もなく、
「なにしろぼくの親分はお釈迦様ですから。うちの親分のほうがもっと怖いです」
とのこと。やはり覚悟が違います。

本書冒頭には、「見てござる」という著者による毛筆の言葉が出てきます。
「お釈迦様は見てござる」という意味かと思いましたが、添え書きには、「これは-
どんな遠く離れていても、親というものは子供のことを決して忘れたりしないものなんだよ。
(中略)子供たちからサインを求められるたび、ぼくはこの言葉を書いています」とありました。

そう、やはり親は子どもが生まれたときの感動は一生忘れないもの。
しかし、子どもは、そのことに気づかなかったり、忘れたりしがち。
つい、中島みゆきの『誕生』という歌を思い出してしまいました。
聴くたびに涙が出そうになる、こんな歌詞がある名曲です。

Remember 生まれた時だれでも言われた筈
耳をすまして思い出して最初に聞いた Welcome
Remember けれどもしも思い出せないなら
私いつでもあなたに言う
生まれてくれて Welcome

やはり生は歓迎されて然るべきもの。ここにすべての原点があります。

和尚は、2012年頃に肺がんが見つかり、治療を続けながら全国を飛び回わっていましたが、
残念ながら、2019年に68歳で亡くなりました。
番組内でも絶えずタバコを吸っており、本書の表紙写真でもタバコをくゆらしています。
ハードワークのなか、唯一のストレス解消法だったのかもしれませんが、
タバコをやめていれば、もっと長く活躍できたのではと、残念に思ってしまいました。

tomeさん

やんちゃ和尚

やんちゃ和尚

広中邦充 / 2005/3/5