この本は、なんとアインシュタインが、フロイトに「人間を戦争から解き放つことはできるのか」と質問し、
フロイトがそれに応えた書簡集です。

国際連盟がアインシュタインに「誰でも好きな人に、
いまの文明で最も大切と思える問いをしてほしい」と提案したことから実現しています。

ときは1932年、ナチスが政権を掌握する前年で 、欧州がきな臭くなってきた時期。
2人ともユダヤ系だったため、
その後アインシュタインは1933年に米国へ、フロイトは1938年に英国へ亡命しています。

アインシュタインにとって、戦争のリスクは、まさに焦眉の問題でした。
書簡2通だけで、わずか50ページほどの内容ですが、
100年近く経ったいまでも、幸か不幸か、読む価値は減じていません。

アインシュタインは、すでに質問の段階で人間の心にこそ、権力欲や破壊への衝動など、
戦争の解決を阻む障害があるのではないかと問題提起しています。

これに対して、フロイトは同意して受け止め、さらに補足していきます。

まず、「人間も動物も利害の対立は暴力で解決してきたが、
人間は、暴力の支配から、法の支配を生み出し、暴力をコントロールするようになった」とします。
しかし、「法は支配者により作られ、支配者に都合のよいものになっていく。
支配者に対抗するには、意見の一致と協力による団結の力が必要」なことも指摘。

その後は、フロイトらしく「人間には破壊への欲動(死への欲動)とエロス的欲動(生への欲動)がある。
わかりやすく言えば、愛と憎しみだが、決して善悪ではなく、両方必要で混ぜ合わさっている」とも説明し、
「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない!」といったんは結論づけます。

しかし、最終的には戦争防止のために、人間の攻撃性に、戦争とは別のはけ口を見つけてやることや、
愛や一体感など、感情の絆を作り上げることの大切さを説くのです。
そして、「文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩みだすことができる!」と結んでいます。

歴史を振り返れば、いつの時代も人間は戦争を止めることはできず、
人間の宿痾であることは、もはや否定できませんが、
また、人間だからこそ、戦争を止められる可能性があることも明らかにしています。

日本にしてみれば、アニメやマンガはいまや世界が注目する立派な文化。
そうした文化交流や民間外交を広げていけば、ひいては戦争抑止につながるということは、
本書を読んで再認識できました。

なお、光文社古典新訳文庫からも、中山元訳『人はなぜ戦争をするのか』として刊行されており、
こちらの方が新訳で、フロイトの他の論考4点も収録されていますが、
アインシュタインの質問の手紙は割愛されています。

tomeさん

ひとはなぜ戦争をするのか 2368 講談社学術文庫

ひとはなぜ戦争をするのか 2368 講談社学術文庫

Einstein, Albert, 1879-1955, Freud, Sigmund, 1856-1939, 浅見, 昇吾, 1962- / 講談社 / 2016/6