「ショック・ドクトリン」という言葉を知っていますか?
2007年にカナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインが書いた本のタイトルですが、
シカゴ学派の経済学者ミルトン・フリードマンが
「真の変革は、危機状況によってのみ可能となる」として、災害時などのドサクサに紛れて、
徹底した新自由主義・市場原理主義を導入してきたことを批判したものです。
「ショック・ドクトリン」は、「惨事便乗型資本主義」と意訳され、
本の副題も「惨事便乗型資本主義の正体を暴く」となっています。
今回、ご紹介する本のタイトルは『堤未果のショック・ドクトリン』。
著者は、2001年のアメリカ同時多発テロの当日、
崩壊したツインタワーに隣接したビルの20階にある野村證券で働いていました。
事件の現場を目の当たりにし、自らもかつてない恐怖体験をした堤さんですが、
実はテロの地獄よりももっと怖いものがあるといいます。
恐怖と怒りでパニックになった人々の憎悪が、
テロリストという敵に向かって凄まじい勢いで吹き出していたことです。
「次のテロはいつ来るのか?」「自分と家族を守るにはどんな武器が必要か?」が
人々の関心事となり、メディアも恐怖をあおる報道ばかりが流されるようになったのです。
こうして銃の売り上げが一気に上昇、
国会では巨額の軍事予算が満場一致で承認されました。
同じ論調ばかりに違和感を覚えていましたが、政府の方針と異なる意見は、
ネットでもいつの間にか凍結され読めなくなっていました。
それからまもなく「愛国者法」がスピード可決。
テロリストからアメリカの治安と国民を守るため、通話記録の収集をはじめ、
当局が国内の隅々まで監視する権限を持つというもので、
かつて日本にあった治安維持法を思わせる内容でした。
これにより、政府は、国民を日常的に監視する権限を手に入れたのです。
こうして、アメリカも実は、中国に負けない監視国家になっていたことを、
本書で改めて認識しました。
近年のトランプ大統領による、移民に対する令状なき逮捕や強制送還をみても、
その傾向は、ますます拍車がかかっているようです。
これが序章で紹介されている「私のショック・ドクトリン」ですが、
世界のショック・ドクトリン事例として、2003年のイラク戦争、2004年のスマトラ沖地震、
2005年のハリケーン・カトリーナのほか、2011年の東日本大震災、
2020年以降の新型コロナパンデミックでもあったとしています。
そして、本書では、現代日本における事例として、
続く1~3章で「マイナンバーという国民監視テク」
「命につけられる値札コロナショック・ドクトリン」
「脱炭素ユートピアの先にあるディストピア」として解説しています。
さきほど、「アメリカも中国に負けない監視国家になっていた」と書きましたが、
読み進むと、日本も、まさに同じ道を進みつつあることを改めて実感させられました。
ちなみ、堤さんは、9月11日の体験から証券会社をやめ、
アメリカの報じられない実態を明らかにしようとジャーナリストになり、
2008年に出版した、アメリカの経済徴兵制と戦争民営化の現実を描き出した
『ルポ 貧困大国アメリカ』は、80万部のベストセラーとなり新書大賞も受賞。
その後も、『沈みゆく大国アメリカ』『政府は必ず嘘をつく』『政府はもう嘘をつけない』
『日本が売られる』『デジタル・ファシズム』『国民の違和感は9割正しい』など、
話題作、問題作を次々と発表しています。
tomeさん