「本屋大賞は取ったものの、どうしても直木賞がほしい」作家が主人公の
出版業界の内幕小説です。
文学賞を描いた小説といえば、自分の作品を落とした選考委員を殺して回る
筒井康隆の『大いなる助走』(1979年)が有名で、
直木賞を取っていない筒井氏の「私怨晴らし」だと当時話題になりました。
しかし、『大いなる助走』は明らかにパロディであるのに対し、
本書は、現実にありえる設定だけで書かれています。
主人公は、もしかして著者本人ではと思わせるほど描写はリアル。
実は、著者のことは名前以外は知らず、著作を読むのも初めてでしたが、
2003年に直木賞を受賞して、いまや4つの文学賞の選考委員も務めている大御所でした。
そして、著者も主人公同様、軽井沢に住み、インタビューで著者は
「直木賞は取ったものの、本屋大賞がほしい」。そしてこれも主人公同様、
「果てのない承認欲求こそ小説の源」と語っていました。
いずれにせよ、担当編集者との濃密な関係も子細に描かれ、
「さもありなん」と思うことからから「そこまでやるか」と感じることまで、めくるめく展開。
ありふれた惹句ながら「一気読み必至」で、実際に1日で読み通してしまいました。
出版業界に興味のある方なら、誰でも引き込まれること間違いなし。
私に本屋大賞への投票権があるなら1番に推し、著者の望みをかなえてあげたい1冊です。
追伸:出版業界の内幕小説は、倉知淳『作家の人たち』(幻冬舎文庫)もオススメです。
こちらは連作短編集ですが、やはりあまりにリアルなので、
著者は何度も「おふざけです」と謝り、予防線を張っています。
tomeさん