学校で日本史を学んでも、戦後史は、時間不足を口実にスルーされるのに似て?
日本文学史の本も、戦後史は、せいぜい1960年代までしか書かれていません。
それは、同時代のことは利害関係も生きていて、
歴史として扱うのに適さないという事情は、もちろんあります。
しかし、そんなリスク?にあえて挑戦したのが、この本です。
やはり、実は一番知りたいのは、同時代のことですものね。

1960年代は「知識人の凋落」、70年代は「記録文学の時代」、
80年代は「遊園地化する純文学」、90年代は「女性作家の台頭」、
2000年代は「戦争と格差社会」、2010年代は「ディストピアを超えて」と
年代ごとに俯瞰的に整理しています。

多数の同時代小説を網羅していて、
小説好きの人には、自分の好きな作家の作品が、戦後文学の潮流のなかで、
どのような位置づけにあるのかが、なんとなくイメージでき、とても重宝します。
自分に向いている読みたい本を見つける指針にもなります。

毒舌の書評家・文芸評論家である彼女だからこそ、
独断と偏見で「えい、やぁ」と書けてしまった部分は、大いにあると思います。
残念なのは、索引がなく、目次も小項目まで掲載されていないこと。
なにぶん新書サイズでありながら網羅的な作りの本で、
作品毎のコメントはわずかですから、紙面に余裕がないからだけでなく、
「あくまでも私説による通史、辞書・事典的に使われては困る」
という事情はあるのかもしれませんが。

tomeさん