
J-POPなどの音楽を聴かない人、CDを買うことのない人には、全く無用な本ですが、
本書の注目すべき点は、その成り立ちにあります。
定額で聴き放題の音楽サブスクサービスが日本に上陸した2015年。
中古盤屋などでCDを買い漁っていた「ディガー」である著者たちにとっては、
それは、実は朗報ではありませんでした。
時間をかけて集めていたコレクションが、サブスク導入後、メジャー作品の音源なら、
誰でも簡便にアクセス可能な「データ」に堕してしまったという空虚感を味わっていたのです。
しかし、あるとき、ブックオフの安売りCDコーナーで、
やや捨て鉢な気分で買った名も知れぬアーティストたちのCDが、
自我崩壊の危機に陥っていた著者を救うことになります。
そこには、シティポップと形容すべき曲が少なからず収録されていることを発見。
「リアルで聴けないレア盤だから、ネットで聞くしかない」と思っていたのが、
「ネットでは聴けないけれど、CDなら聴ける、いやCDでしか聴けない」
という反転現象が生まれてきたのです。
こうして、全国にいたシティポップ好きのCDオタクたちは、
いつのまにか知り合いつながるようになり、
2018年に結成したのが“lightmellowbu”(ライトメロウ部)であり、
彼ら15人とゲスト2人が書きためたCD評をまとめたのが本書だったのです。
(ちなみに「ライトメロウ」とは、シティポップなどの軽やかなメロウネスをたたえた音楽といった意味)
やはり、オタクの熱量は半端ではありません。
歴史に埋もれていた様々なシティポップの名作を発掘・紹介するに留まらず、
「忘れられた時代」たる80年代末期以降のシティポップを再解釈/再評価することで、
これまでの音楽の価値観や歴史観を問い直すことまで試みていたのです。
たしかに、ページをめくってみると、ネットには全く情報のないグループの名盤を発掘したり、
アイドルのCDのなかに、シティポップの名曲を見い出したり、
果ては、ダイソーの100円のリラクゼーションCDの中の素晴らしいフュージョン曲を紹介したりと、
まさに本書のタイトルにある「オブスキュア」。
これは「不明瞭な、曖昧な、謎の」といった意味ですが、
シティポップに興味のある人にとっては、従来の価値観に囚われないCDガイドとして、
新たな発見のある「謎の」CDガイドとなりそうです。
音楽に興味のない人にとっては、まえがきとあとがき、そしてコラムが読みどころです。
このコラムで、CDジャケットの裏に記された謎のアルファベットの意味を初めて知りました。
ちなみに、私は日本のフュージョン音楽(Jフュージョン)のファンで、
そうした傾向の名盤発掘の参考になるかもと本書を手にしたのですが、
幸か不幸か、気になるCDは、収録512枚中5枚程度でした。
tomeさん 男性