栗城史多『デス・ゾーン』を読んだことから、関連書として知った本で、
ともに登山家を第三者が綴った評伝という形を取っていますが、
いろんな意味で、似て非なる本といえます。

『デス・ゾーン』は、栗城史多のドキュメンタリーを制作したテレビディレクターが著者で、
本書は、野口健の元マネージャーが著者なのですが、
彼はその10年間に、なんと野口事務所への3回の入社と退職、
精神病院への2回の入退院を繰り返しているのです。

要は、お互いにその魅力と必要性を強く感じながら、
お互いにあまりに近過ぎ、知り過ぎたこともあり、
相手が許せなくなったり、耐えられなったりすることが主因だったようです。

タイトルからすると、野口健の暴露本のようにも見え、実際それに近い部分もありますが、
基本的には「野口健伝」には違いありません。
ただ、本書には、著者の自伝的記述も多々挿入され、当初違和感を持ったのですが、
読み進むに連れ、その意味が理解できるようになりました。

野口健も著者も、会いたい人がいれば、
あらゆる手段を講じて面会を実現してしまう行動力は瓜二つで、
たぐい稀なる才能といえます。

野口健も、政治家を目指していた頃は、
登山が趣味であった橋本龍太郎との面会・交渉を実現するのですが、
著者も、作家志望であったことから、
全くのコネがないところから村上龍や石原慎太郎に面会しただけでなく、
そのアシスタントとしての仕事も獲得しています。

その点で、2人は非常に似通った部分もあり、
著者も互いの生い立ちや性格などを対比しつつ際立たせています。

長らく作家志望であり、野口健からも「本を書いた方がいい」と
勧められていた著者による「野口健評伝」でありながら、
野口健とのかかわり合いの総決算ともいえる著者の自伝的作品でもあり、
期せずして処女作となったのがこの本なのです。

サバイバル登山家?の服部文祥が、栗城史多と野口健のことを
「登山家として3.5流」だと評している話は本書にも登場し、著者も論じています。

この2人は、もともと山に魅せられ、純粋に山を愛しているが故に
登山をしているというよりも、自分の存在証明や他の目的のために
登山をしている部分が少なくない点では理解できます
(それがいけないとは全く思いませんが)。

作家志望であっただけのことはあり、文章には読ませる力があり、
受賞は逃しましたが、開高健ノンフィクション賞の最終候補にもノミネートされています。
もっと読まれていい本だと思います。

tomeさん