毎年、1月と7月に発表される芥川賞と直木賞の受賞作。
最近は、エライ作家先生が選んだ本よりも、書店員が選んだ本の方が面白いと、
本屋大賞の方に注目が集まりがちですが、
それでも、芥川賞は、日本で一番「権威」?ある賞であることには違いなく、
影響力は、いまだ絶大です(読者よりも作家志望者に?)。
本書は、1934年に芥川賞が創設されるまでの話から書き起こし、
第1回の受賞作品から、2016年上期の『コンビニ人間』まで、
その作品が選ばれるまでの全プロセスを綴った80年余の「芥川賞史」。
興味深いエピソードが多数ありますが、一番驚いたのは誤報事件。
1961年下期のこと。選考会場に詰めていた編集者が、
最後まで争った2作とも受賞に決まったと勘違いし、
結果を待つ吉村昭に受賞の連絡をしてしまったというのです。
文春に到着した本人は様子がおかしいことに気づき、出てきた編集者が頭を下げたとか。
心中察して余りあります。
このとき受賞したのは、宇能鴻一郎の作品。ポルノ小説の大御所として有名ですが、
実は、純文学出身の芥川賞作家だったのですね。
一方、吉村昭といえば、いまでは
緻密な調査と時代考証にもとづいた歴史文学の書き手として有名。
しかし、次回4回目も候補になるも落選。
奥さんである津村節子は1965年に受賞したのですが、
結局、万年候補で終わってしまいました。
万年候補といえば島田雅彦。
1983年から86年まで、6回候補になりながら遂に受賞できなかった最多落選者。
その6作品は、『島田雅彦芥川賞落選作全集』として河出文庫から上下2巻で出ています。
その後の2010年、皮肉なことに芥川賞の選考委員として声をかけられ要請に応じ、
今日に至るまで14年、選考委員を続けています。
他にも、本屋大賞と違い、1981~86年には11回中7回「受賞作なし」だったこともビックリ。
まだ本が売れていた時代だったとはいえ、
書店や出版社は、さそかし選考委員を恨んだことでしょう。
(だからこそ、本が売れるようにと本屋大賞が生まれたという背景もあります)。
なお、著者は、直木賞をこよなく愛する在野の研究者。
実は、出版社から、芥川賞についての執筆依頼をされたことにとまどったものの、
自分の本が出せることの誘惑には勝てず引き受け、本書が生まれたとか。
幸いにして、その後『直木賞物語』も書かせてもらっています。
tomeさん