生前から、毀誉褒貶の多い登山家だった栗城史多さん。
「冒険の共有」を標榜し、「単独・無酸素」登山の様子をインターネットで生中継し、
テレビのドキュメンター番組としても何度も取り上げられ、私もそれで知るようになりました。

もともとは、お笑いタレントになりたかったため、人から見られ、人を喜ばすことには、
人一倍こだわりがあり、それがインターネット生中継に結びついたことは、想像に難くありません。

2007年、25歳のときまでに、エベレストを除く7大陸最高峰(セブンサミッツ)に登頂。
しかし、最後のエベレストだけは、なかなか彼に微笑んではくれません。

2009年から毎年挑戦しますが、3度目は、埋めておいた食料をカラスに荒らされ断念、
4度目には重度の凍傷を負い、これが元で両手の指9本を切断することになってしまいます。

それでも2015年から毎年挑戦を再開。
そして8度目の挑戦となる2018年、35歳の若さで、遂に帰らぬ人となってしまいました。
だんだん追い込まれて、あえてより難しいルートを選ぶようになり、
危険な領域に自らを追い込んでいくような彼の歩み。

なぜ彼は、そうまでしてエベレストに挑み続けたのか? 彼は何を求め続けていたのか?
彼の番組を制作したこともあるTVディレクターの著者が、関係者に広く取材し、
批判的な眼も保ちながら、丹念にその虚像と実像を描いていきます。
第18回(2020年)開高健ノンフィクション賞受賞作。

ちなみに、2024年7月には、世界的に評価の高い登山家の平出和也さんと中島健郎さんも、
遭難し命を落としてしまいました。

プロの登山家は、多くの人から金銭的支援を受け、多くの人の期待を背負って挑戦を続けています。
極限状況のなかでは、荷物以上の重みに耐えかねてか、
空気の薄い「デス・ゾーン」から、文字通りの「デス・ゾーン」に、
ともすると足を踏み入れてしまうことは、避けられないことなのでしょうか。

tomeさん