著者の田坂広志さんは、もともとは原子力工学の専門家でしたが、
その後、起業や経営の専門家になり、内閣参与も務めたこともあります。
著書は100冊を越え、私塾「田坂塾」も開き、経営者やリーダーの育成にも尽力しています。
メディアで知る限り誠実な人柄で、
著書『人生の成功とは何か 最期の一瞬に問われるもの』を、ここでご紹介したこともあります。
そんな方が『死は存在しない』という本を書かれているのですから驚きです。
もともと著者は、科学者として唯物論的世界観を身につけ歩んできたため、
当然、死後の世界は存在しないと考えてきました。
しかし、自らがこれまであまりにも多くの不思議な体験をしてきたことから(本書にも8例紹介されています)、
その理由を探るうちに、量子力学における「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」にたどり着きます。
この宇宙に普遍的に存在する「量子真空」の中に「ゼロ・ポイント・フィールド」と呼ばれる場があり、
この場に、宇宙のすべての情報が「波動情報」として記録されているという仮説です。
そもそも量子力学では、この世に物質は存在せず、すべては波動であると考えます。
そうした量子力学研究のなかに、この仮説もあるのです。
科学者・研究者であるだけに、本書を読む限り、
かなり説得力のある説明がなされていて、信じるに足る気がしました。
ただ、いろいろ調べてみると、物理学的に確立している標準的な量子場論では、
真空は「何もない空間」ではなく、場の最基底状態であり、エネルギーとゆらぎが存在しますが、
「全過去の情報が刻まれているデータベース」とは扱われません。
20世紀以降、神秘思想やニューエイジ思想において
「ゼロ・ポイント・フィールド=宇宙の記録媒体」と比喩されることが多くなったとの指摘も。
真偽のほどは、本書を読んで各自ご判断いただきたいと思いますが、
本書で「科学」と「宗教」の間に架けるべき「新たな橋」を、著者が真摯に志向している点では、
一般的なスピリッチュアルな本とは一線を画す、一読に値する著作だと感じました。
tomeさん