「中年再生工場」という異名を持つ立川談四楼さんによる実録弟子小説です。編集者、商社マン、翻訳者、お笑い芸人など様々な職業に就いていた人たちが、それぞれの理由から転身を目指し、落語家へ入門を志願するのです。やってくる志願者は若くて30代半ばという。
談四楼さんご本人は、高校時代に立川談志さんに弟子入りを志願、高校卒業と同時に入門している。「弟子にしてもらえなければ、他の道を歩んでいた」という。社会人としての立場や地位を捨ててまで、落語家を志願する中年の弟子を暖かくも厳しく指導する物語である。
「社会人としての経験は、大切で価値がある」という談四楼さんの考え方の下、弟子たちの苦闘が描かれている。一方で、師匠の方にも悩みは尽きない。
弟子を育てる苦労などせずに、落語に向き合う時間に充てた方が気楽でいいのではないかと部外者は感じてしまうが、そこには現在失われつつある人間関係の温もりを感じる一冊です。
落語家に転身しなさいとは言わないが、こんな上下関係のある世界もことを知った上で転職に臨んでみてはいかがだろうか。
だんだいさん 67歳 男性