伝記といえば、必ず偉人の名前が書名に入っているのが通例。
しかし、本書は「TN君の伝記」と題して、名前を明らかにせず、あとがきでも明かしていません。
その理由は簡単。まえがきに書いてありますが、
「知ってほしいのは、彼の名前ではなくて、彼がどんなふうに生きたかということだから。
そのためには、名前なんてじゃまになる。そう思ったから」だそうです。

幕末から明治にかけ生きた人で、いかにして明治政府が生まれ、国会が開かれるに至ったかを、
民衆に寄り添ったTN君の視点から、生き生きと描いています。

司馬遼太郎の「司馬史観」の影響からか、明治国家は、
日本の近代化を成功させたとして、ともすると美化して語られがちですが、
本書を読むと、当時の政府が、
民主主義をいかに恐れ、弾圧していたかを、改めて思い知らされます。

TN君は、そのときどきの情勢を絶えず冷静に分析し、
いつも目標のその先を長期的視点から考えていました。
そうした姿勢や人柄には、大いに感じるものがあります。

54歳で癌で亡くなりますが、
「死んだらすぐに火葬場に送って荼毘にしろ」と遺言したため、
葬儀は、宗教儀礼のない無宗教葬として行われました。 
これが今日の「告別式」の始まりと言われています。

ちなみに、この人が一体誰なのかは、
歴史の教科書にも出てくる人ですから、調べればすぐにわかりますが、
著者も明かしていないので、私も一応ネタバレは避けることにします。

tomeさん