本書は、NHK出版「学びのきほん」シリーズの1冊。
「2時間で読める教養の入り口」を謳い、
新書よりさらに読みやすい入門書がたくさん出ていますので、
読書が苦手な方にもオススメのシリーズです。
著者は『おひとりさまの老後』『在宅ひとり死のススメ』などの
ベストセラーで有名な上野千鶴子さん。
社会学者でフェミニストですが、フェミニストやフェミニズムと聞くと、
男性にとっては「ちょっとこわいもの」「あまり関係のないもの」「かかわりたくないもの」
とのイメージを持ってしまう人も多いかもしれません。
フェミニズムとは、広辞苑によれば
「女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、
男性支配的な文明と社会を批判し組み替えようとする思想・運動。女性解放思想。女権拡張論」
とのことですから、確かに男性には、ちょっとこわそうですよね。
しかし、著者は「フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、
弱者が強者になりたいという思想ではありません。
弱者が弱者のままで尊重される思想です」とし、
2019年4月に東京大学の入学式で祝辞のなかでも述べたこととして、本書にも書かれています。
この祝辞は、著者がTV番組『情熱大陸』でも取り上げられるほど当時話題になったのですが、
話題のキモは、「頑張ったら報われると思えるのは、あなたがたの努力の成果ではなく、
環境のおかげだったことを忘れないようにしてください」の部分だったと記憶しています
(まさにマイケル・サンデル『実力も運のうち』のような話です)。
しかし、この後続けて「恵まれた環境と能力を、恵まれない人々を貶めるのではなく
助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください」
と述べ、フェミニズムの話につなげていたのでした。
フェミニズムが「弱者が弱者のままで尊重される思想」とはピンとこないかもしれません。
しかし、「女は女であるだけで弱者である訳ではありません。
ですが、女に割り当てられた『ケア性』の経験は、
子ども、老人、病人、障害者などに寄り添うことで弱者としての経験に近づきます。」とあり、
フェミニズムは、実はケアの思想と重なることに気づかされました。
高齢化の進展で、近年ケアの思想が注目されていますが、
フェミニズムを学ぶことでケアの本質も見えてくると感じました。
一番腑に落ちた言葉を最後に引いておきます。
「人は弱者として生まれ、弱者として死んでいきます。
強者である期間は、人生のあいだで一時のことにすぎません」。
tomeさん