音楽家の中には軽妙洒脱な文章を書かれる方が多いですね。

池辺晋一郎さん、岩城宏之さん、
茂木大輔さん、山下洋輔さん…など
何人も思い浮かびます。

そんな中でも、日本を代表する女性ピアニストだった
中村紘子さんの本は傑作揃いです。

1992年発行の本書では「はじめに」の次の文章で
一気に引き込まれること間違いありません。

“大体みんな、三、四歳の時から一日平均六、七時間は
ピアノを弾いているのだ。

たった一曲を弾くのに、例えば
ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第三番」では、
私自ら半日かかって数えたところでは、
二万八千七百三十六個のオタマジャクシを、
頭と体で覚えて弾くのである。

それもその一音一音に心さえ必死に籠めて……。

すべてが大袈裟で、極端で、間が抜けていて、
どこかおかしくて、しかもやたらと真面目なのは、
当り前のことではないだろうか。”

中村さんは研究熱心でもあるので、
世界の名ピアニストのことが、ただ面白い
ということだけでなく、演奏家の視点から
奥行き深く紹介されるので、とても勉強になる
本でもあります。

中村紘子さんの演奏(録音)を聴いて
クラシック音楽ファンになる方と同様に、
その著作を知ってクラシック音楽ファンになる方も
少なくないと思います。

とりわけ若い方には、20世紀に活躍した
名ピアニストについて知る意味でも本書を
おすすめします。

ラベンダー・オラフさん 67歳 男性