村上春樹氏自身による<あとがき>によると、1980年に文芸誌に発表した中編小説「街と、その不確かな壁」を大幅に書き直し、1985年に出版した『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を”上書きする”のではなく、併立し、補完しあう作品になるとのこと。
私は『世界の終わりと・・・・・・』を読んだことがあるので、三部構成のこの新作小説の第一部を読んでいるとき、「この本は、本当に新刊オリジナル長編小説なのか?」と思い、帯を再確認したほど『世界の終わり・・・』の中の街そのままの街の姿を描いています。(その街では人々は影を持たない。)

この『街とその不確かな壁』では、影を持つ世界(つまり壁に囲まれた街の外の世界)が、豊かに描かれています。壁の内側の影を持たない「私」がコインの裏なら、壁の外の世界の「私」はコインの表のような関係性です。
私は『世界の終わりと・・・』に閉塞感を覚えていたので、この新作を読んで、壁の内側と外側が溶け合うような展開に、解放感と、いつもの村上氏の清潔感溢れる知的な文体に、他の作家にはない独自性を改めて感じました。

みーちゃんさん 54歳 男性