この言葉は、「愛国心」を語って、自己の利益や悪事を隠そうとする人々を批判する
サミュエル・ジョンソン(18世紀の英国の思想家)の言葉で、
本小説『愛国商売』の冒頭にエピグラフとして掲げられています。

まさに、本書のモチーフをひとことで言い表しています。著者の古谷経衡(ふるや・つねひら)氏は、
以前はよくテレビでも見かけ、茶髪ロンゲがトレードマーク。
2011年にライターとしてスタートしてからしばらくは、ネット右翼や保守論壇に身をおいていました。

しかし、彼らは「ファクトに基づいて議論するメディアとして最低限の作法も身についていない」として、
2015年頃から批判する立場に転換(2022年には、れいわ新撰組の代表選に立候補したことも)。
本書は、当初はノンフィクションとして彼らの生態を描く予定でしたが、
それではあまりに支障があるとの判断で、フィクションとして書かれ刊行されました。

実際、フィクションとはいえ、内部にいた人ならではのリアルさで、
いかにその言説が商売の道具としてのみ使われているかを興味深く描き出しています。

自伝小説ではないそうですが、孤独な自営業者だった主人公が、保守系言論人の勉強会に参加し、
懸賞論文に入選したことから、新星として周囲に祭り上げられていく様は、
どこか著者を彷彿とさせ、少なからぬ部分は自分のことかと勘繰ってしまいます。
これも本書を読む楽しみ?のひとつです。

愛国心については、『日本国民のための愛国心の教科書』という本も紹介したことがありますので、
あわせて読んでみてください。同じ「愛国心」でも、天と地ほどの違いがあります。

tomeさん

愛国商売 ふ25-1 小学館文庫

愛国商売 ふ25-1 小学館文庫

古谷, ツネヒラ, 1982- / 小学館 / 2019/11