最近『○○歳、~』と名を冠した本が、やたら増えていますよね。
そう、高齢化先進国だからこそ、いまや日本は「老い本」大国にもなっているのです。
『九十歳。何がめでたい』(2016年)の佐藤愛子を筆頭に、
樋口恵子、五木寛之、曽根綾子ら、
「老い本」界のスター、すなわち「老いスター」が人気となっています。
書店でも、そうした本を集めたコーナーが、都市部に限らず地方でも増えているそうですが、
高齢者は「書店に行って紙の本を買う人々」。若者の本離れやネット購入が進むなか、
出版社にとっても、書店にとっても、高齢者はありがたい存在なのです。
本書は、そうした「老い本」ブームを、
うば捨て伝説を題材とした深沢七郎の『楢山節考』(1957年)を起点とし、
認知症本のルーツである有吉佐和子の『恍惚の人』(1972年)を経て、
日野原重明の『生き方上手』(2001年)が、
今の老い本ブームの源流になったと分析しています。
近年に特徴的なのは、プロの書き手や専門家ではなく、
一般の超高齢者の書き手が増えたこと。
もちろん、出版社が売れる市場として、高齢者の人気ブログなどに目をつけ、
筆者を開拓してきたことが主因と言えそうですが、
とくに一人暮らしの高齢女性のライフスタイルを紹介した本が多く見られます。
おもしろいのは、書き手が女性ばかりなこと。男性の本は、あっても、
一人暮らしが高尚な趣味か哲学のようになっている、経済的に恵まれた名のある人ばかり。
妻をなくして一人暮らしになると、
男性はとたんに生活弱者になってしまうケースが多いことも関係しているとか。
著者は、『負け犬の遠吠え』(2003年)で名を馳せた女性コラムニスト・エッセイスト。
現在59歳で、「そう遠くないうちやってくる高齢者としての日々に備えるためにも、
老い本の世界を探っていきたい」とのことでした。
名コラムニストだけに気軽に読ませる本で、
そうした気軽に読ませるエッセイの歴史を綴った『日本エッセイ小史』も、
本書同様、出版界の流れを俯瞰できる本として、類書なき好著です。
tomeさん