本書『新しい左翼入門』には特筆すべき点が2つあります。

ひとつは、世の中が右傾化しているとか、
「パヨク」(左翼の蔑称)・「ネトウヨ」(ネット右翼の蔑称)とか、
いまだに左翼・右翼という言葉はよく使われていますが、
左翼とは何か、右翼とは何かということに、わかりやすいユニークな説明をしていることです。

左翼・右翼の語源は、フランス革命期の議会で、
議長から見て急進派が左に、王党派が右に坐ったことからきており、
改革派が左翼、保守派が右翼というイメージもお持ちの方が多いと思います。

もちろん、それで間違いではないのですが、著者は、あとがきで、
「世の中を横に切って、上と下に分けて認識し、下に味方するのが左翼で、
世の中を縦に切ってウチとソトに分けて認識し、ウチに味方するのが右翼」と定義しています。
これは私には、目からウロコでした。

この観点からすると、たとえば、下層にいる移民に対しても味方しようとするは左翼的であり、
知らない移民よりもウチである自国民の味方をするは右翼的だということがよく理解できます。

もうひとつは、日本の社会運動の歴史を、「嘉顕の道」と「銑次の道」という
2つの指向性の相剋と葛藤の歴史として、明解に描いていることです。

「嘉顕(よしあき)」「銑次(せんじ)」というのは、1980年のNHKの大河ドラマ
『獅子の時代』(山田太一作)に出てくる2人の架空の主人公。
平沼銑次は、会津藩の下級武士で菅原文太が、
苅谷嘉顕は、薩摩藩郷士で加藤剛が扮していました。

理想や理論を抱いて、それに合わない現状を変えようとするのが「嘉顕の道」、
抑圧された大衆のなかに身をおいて「このやろー!」と立ち上がるのが「銑次の道」という訳です。

日本の左翼の歴史については、池上彰さんと佐藤優さんの対談による年代別の
『黎明・日本左翼史』『真説・日本左翼史』『激動・日本左翼史』『漂流・日本左翼史』の
4冊(いずれも本書と同じ講談社現代新書)が出ていますが、
とりあえず全体を俯瞰し、左翼がなぜ、対立と抗争を繰り返し、
今後、どんな可能性が残されているのかを知る手引きとしては最適な本だと思います。

tomeさん