大学生であった主人公が、将来に特に夢や希望の無いまま、自動車製造メーカーに就職し、様々な職務経験を経て、人間的にも社会的にも成長していく、という内容です。

特筆すべきは、多くの人々もそうであるように、主人公が、特に将来に夢を描き、就職に希望を見いだしている訳では無い。ということ。

現に主人公は、初出社の前日、社員寮の一室で、勝手気ままな学生生活とは異なり、朝から夕方まで、自分の時間が無い生活が続くことに、払う犠牲の大きさを痛感しています。

それでも、職業人としての自己を見いだして行くのです。

朝から夕方まで、自動車製造部品の、どの部分のどんな役割を担うとは、見当もつかないまま、それらの品々の原価を計算していた主人公。
仕事内容の意味も知らずに、日々働いていた訳です。

意味は分からないが、決められた型通りに動く。能や狂言と通ずる物があります。
その時は、意味など分からなくても、いいのだろうと思います。成長してから分かるかも知れないのです。

型は、その型になった、理由がある。つまり、その仕事の方法は、そうなった理由がある。そのことに気付かされる、深い内容の一冊です。

夢なんて、全然無いよ~。

それでも、とりあえず働いてみようか。そんな風に、背中を押してくれる本だと思います。

雪見酒さん 50歳 女性
最近やっと職業人としての自覚が芽生えた、1工員です。