ブックガイトは数あれど、100人の現存作家の500以上の小説すべてに、
100点満点で点数を付けるという、
なんとも恐れ多いことをやってのけた本が2冊あります。
1冊目は、2000年刊の福田和也『作家の値うち』。
著者は、江藤淳に見いだされた文芸評論家で、
デビュー10年にして新潮新人賞や三島由紀夫賞の選考委員にもなった人物。
まさに江藤淳ばりの保守の論客としても知られていました。
「ワインを点数評価した『ボルドー』のような本が、小説でもできないか」
という出版社社長の発案を受け、
彼の著書名でもある『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』を駆使し、
500以上の作品をすべて読んだうえで書き上げたブックガイドなのです。
その思いは「どう見ても価値のない作品が文学賞を受賞する一方、
優れた作品が何の反応も評価も受けないまま消え去っていく」ことに対する苛立ちでした。
刊行後、当然のことながら、文壇・読書界に激震が走り、論争も発生。
その顛末・後日談として、1年も経たないうちに『「作家の値うち」の使い方』
という本まで出しています。
もう1冊は、2021年刊の小川榮太郎『作家の値うち』。
体調不良続きだった福田氏(2024年9月に63歳で病没)の代わりに、
出版社社長が小川氏に執筆を依頼。
事実上の改訂版にあたる同名書として刊行されました。
サブタイトルは「令和の超(スーパー)ブックガイド」。
この方も文芸評論家ではありますが、
福田氏以上に右寄りで、安部晋三氏を支持し、朝日新聞と争ったり、
雑誌『新潮45』でLGBTへの差別的表現で問題となった『杉田水脈』論文を
擁護する寄稿をしたりと、この本ではなく、政治的活動で世間を騒がせていました。
とはいえ、著者は異なれど、同じ形式を踏襲し100作家を網羅。
しかも掲載作家も半数をその後活躍中の人に入れ換えた、
比類なきブックガイドであることに変わりはありません。
何より、自分が好きな作家の作品や、未読だが気になるに作品が、
どう評価され何点がつけられているかは、誰しも気になりますよね。
少し紹介しますと、「福田版」では、五木寛之は総じて評価が低く
「時の経過に耐え得なかった」として7作品すべてが40~50点。
高橋源一郎は4作品てすが、91点から21点まであり極端。
「小川版」では、原田マハは4作品が65点から18点まであり、
三浦しをんは4作品で63点もあれば、なんと0点の作品も。
さらに全作品通じて採点不能が4作品。マイナス90点もありビックリ。
これ以上は、ご興味があれば両書を読んでみてください。
「なるほど」と感じるところもあれば、「?!」と思うところもあり、楽しめます。
また、両書には、約半数は同じ作家が掲載されていますので、
読み比べるという楽しみ方もできます。
tomeさん