意外に影響しあっている言葉と社会の関係

本書のタイトルは『ことばが変われば社会が変わる』。
一般的には、社会が変わるから言葉が変わるとイメージされがちです。
たとえば「コンピュータ」は、その存在の誕生により、名前が生まれています。
これに対して、言葉が変わることで社会が変わった事例を、社会言語学の立場か
ら実証・分析しているのがこの本です。

その代表例が「セクハラ」(セクシャル・ハラスメント)。
この言葉の力を信じたグループの行動をきっかけに、
セクハラ問題は日の目を見て議論となり、社会を変える原動力となり、
遂にはセクハラ防止が雇用主に法的に義務づけられるまでになったのです。

本書には政治家は登場しませんが、政治の世界では、なお一層言葉の影響力は大。
ひとつの言葉が社会や世界を大きく変えることはよくあります。
そういえば、飛ぶ鳥を落とす勢いだった新興政党の党首が「排除します」といった一言で、
その後失速してしまったなんて話もありました(いま都知事をしているあの方です)。
「セクハラ」は社会を変えるのに時間がかかりましたが、「排除します」は、
事態をほとんど一瞬で変え、政治に影響を与え、社会も変えたとも言えるかもしれません。

言葉を優先するこの考え方は、「モノが先にあり、それに名前をつけている」のではなく、
「名前をつけることで、それが他から区別され、世界を成り立たせている」とする
言語学者のソシュールの思想が源流にあります。

本書でも、従来の「社会反映論」的考え方から、
言語が社会を構築するというコペルニクス的転回をもたらした
哲学者ミッシェル・フーコーによる「社会構築論」について冒頭で触れられています。

この他にも、「社会言語学的変化」「意味の規制」「意味の漂白」「言語イデオロギー」など
抽象的な概念が本書には多く登場し、必ずしも誰にでも読みやすい本とは言えません。
しかし、「イケメン」「男になる、男にする」「おかま」「~女子」「パートナー」など、
近年よく使われている言葉の実例を豊富に取り上げ、
そこに含まれいてるニュアンスを丁寧に解読し、知的興味を大いにそそられます。

著者は、同じ「ちくまプリマー新書」で『「自分らしさ」と日本語』という本を、
本書の前に書いていることをあとがきで知り、こちらも読んでみたいと思いました。

tomeさん 男性