幻冬舎の辣腕編集者としてヒットを連発、飛ぶ鳥を落とす勢いだった著者が、
2020年、セクハラ&原稿料踏み倒し事件を「文春砲」にあばかれ失墜。
失墜前に書いた本が『死ぬこと以外はかすり傷』(2018年)で、
失墜後に書いた本が『かすり傷も痛かった』(2023年)です。

前者の本は、読んではいませんでしたが、そのインパクトある書名は、よく覚えています。
しかし、失墜後の本も、前著を踏まえ、興味を引く書名をつけた著者の才能には、
並々ならぬものを感じます。

書名だけではありません。本の造りが前代未聞。
道を誤ったことへの懺悔の書は、意外に少なくありませんが、
本書は、前著をすべて収録(赤パート)し、節毎のタイトルに赤入れし、
節毎に大量の追加コメント(白パート)を書き加えているのです。

内容的には、必ずしも前著を全面否定している訳ではありません。
著者は、前著は仕事論で、本書は人生論だと整理しています。
たしかに仕事論としては、たとえば「編集者は最強だ」とする著者の意見には、
元編集者の端くれである私としても、共感するものがあります。

著者が「編集者は最強」とする理由は、①「才能カクテルが飲み放題」、
②「ストーリーを作れる」、③「人の感情に対する嗅覚を磨ける」の3つ。

③は、肌感覚で磨くことで、売れる本が作れるようになるということ。
②はまさに編集者の仕事で、本に限らず、
差別化が求められる今日のマーケティングにおいては欠かせません。
そして①は、書いてほしい筆者に次々に会え、ぶつかり合いながらも本づくりができること。
そのため、実は一番成長できるのは読者ではなく編集者。その通りだと思います。

しかし、懺悔の書としての著者の結論は、
「競争をし続けても幸せになるわけではない」、だから「脱成長」ではなく「脱競争」。
「競い合いには乗らず、自分の道を作っていく」と結んでいました。

ちなみに、前著の「はじめに」と「おわりに」のタイトルは
「こっちの世界に来て革命を起こそう」と「バカになって飛べ!」でしたが、
本書では「こっちの世界では革命は起こらない」と「かすり傷のまま生きていく」
と赤字が入っていました。

tomeさん