いまや「推し活」は、SNSの助けを得て、
ファンダム(熱心なファンたち)というコミュニティを形成しながら膨張し、
ときには暴走しながら、大きな市場を生み出しつつあります。
そんな現代社会の最先端事象の深部を、
これほど徹底的に腑分けし描き切った作品は他に例を見ず、
「推し活」の当時者にはもちろん、あらゆる人に深く刺さる衝撃作と言えそうです。
物語を仕掛けるレコード会社の社員、
留学を目指しながら次第にファンダムにのめり込む大学生、
「推し」が原因不明の自殺をしたことから陰謀論にのめり込む契約社員。
三者三様に視点を変えながらストーリーは進行します。
興味深いのは、「推し活」や「陰謀論」のおかげで、
人とのつながりができ「幸せ」を実感する人々を、
価値判断なく、淡々と描いていること。
また、世間話が苦手で孤独に陥りがちな中年男性と、
容易に人とつながってしまう女性たちも対比され、
今日の人間関係の諸相を的確に照らし出していると感じます。
「中毒症状があるほかが、苦しくないのだ、人生は」との言葉が出てきますが、
現代人にとって何が幸せなのか、考えさせるきっかけになるとともに、
社会心理がどのように生み出されるのかを知るテキストとしても興味は尽きません。
小説としては、個人的には若干くどい印象を持ちましたが、
本屋大賞の上位に十分入る力作と言って間違いなさそうです。
tomeさん



