菊池寛といえば、いまでは作品より、雑誌『文藝春秋』や『芥川賞・直木賞』を
始めた人としての方が有名ですが、菊池寛の人柄を踏まえ、そうした経緯も交え、
彼の生涯を描き出した伝記的作品です。

芥川龍之介とは、高校の同級生で、同じ夏目漱石の末端の門人。
芥川や久米正雄は、漱石に作品を読んでもらいたいとの思いから、
同人誌『新思潮』(第3次)を創刊しています。

当時京都にいた菊池寛にも声がかかり同人に参加しますが、
漱石から評価されたのは芥川でした。
先に文壇の注目を集めた芥川に対し、京都にいた菊池寛は、
当時の嫉妬する心境を吐露した『無名作家の日記』を発表。
これが大当たりし、次第に立場は逆転、
その後もヒット作が続き、文壇の寵児となり莫大な財産を築くのです。

そして、その財産をもとに、若い作家を育てるために『文芸春秋』を創刊。
当初は同人誌的雑誌でしたが、それを総合誌に変えていくことで、
会社として大きく成長していくことになるのです。

こうした経緯は読み処ですが、国の要請に応じ、次第に戦争協力に巻き込まれ、
むしろ推進していく立場に変わっていく描写も興味深く、
何度取材されても笑顔だけは見せず、
リベラリストとしての最低限の矜恃を保とうとしている様は、印象深いものがありました。

tomeさん